CEDEC 2013のファンタシースターオンライン2 RMT最終日に行われた講演「アニメーションにおける音響制作と演出の組み立て」は,東映アニメーションの企画スーパーバイザーという肩書きを持つ関 弘美氏が,ゲーム制作とは異なるスピード感で行われるアニメーション制作のワークフローを紹介しつつ,演出へのこだわりや苦労を語るというセッションだった。
東映アニメーション株式会社 企画営業本部・企画開発スーパーバイザー 関 弘美氏
バンダイナムコゲームス 中西哲一氏
氏は「花より男子」「おジャ魔女どれみ」「金色のガッシュベル!!」など,多くの東映アニメーションで番組プロデューサーを務めてきた。トップクラスのアニメ制作者がゲーム開発者に向けて語るという機会は滅多になく,非常に貴重なセッションと言える。なお本セッションには,バンダイナムコゲームスの中西哲一氏がMCとして参加している。
セッションの材料として使われたのは,Scarlet Blade RMT,今年の秋から放送開始となる「京騒戯画(キョウソウギガ)」という作品だ。この作品は2011年,イベント用の映像として公開されたのちにWebで配信され,2012年には5本ほどの短編アニメも作られている。今年の秋から,BS朝日とMXTVで,深夜枠ワンクールのテレビ作品として放映される予定だ。
このアニメの音楽は,通常のテレビアニメとは異なり,映画の音楽制作で使われる「検尺方式」(後述)という手法で作られている。「だから一つのシーンで,大変多くの要素の音楽がかかっています」(関氏)
テレビの場合,少なくとも公開の3,PSO2 RMT4か月前には制作発表が行われ,映画の場合では,ほぼ1年前から公開日が決められている。制作現場としても,公開タイミングを(制作現場の事情とは関係なく)絶対にずらすことができない。
一方ゲームの場合,「発売延期」のアナウンスがなされることはよくあることだが,氏はその告知を見るたびに,「ゲーム業界ってうらやましい」と思うそうだ。テレビアニメのほうはそうはいかず,放送日が決まると,最悪の場合でもその2日前にはテレビ局に納品されていなければならない。その後,納品されたキー局となるテレビ局からマイクロ波で送られた電波を地方局が受け取って,決められた日時に放送される,という仕組みになっているからだ。
映画の場合も,公開館数が300館におよぶと,300スクリーン分の映像を用意しなければならず,データや,DCPというパッケージを送るための時間をすべて逆算して,この日までに現像所へ,できあがったフィルムを納品しなければならない。準備が遅れたからといって,公開日を3か月ずらすわけにはいかないのが「興業の世界の掟」(関氏)とのことで,放映日や上映日に厳しいショービズの世界の内幕が披露された。
続いて,テレビ番組の音楽制作手法について説明がなされた。素材は14,5年前に作られた,「デジモンアドベンチャー」という作品の音楽のメニューリストだ。テレビアニメの音楽は「選曲方式」という方法で作られている。「まだ映像も何もない段階で,シナリオが15,6話分あり,絵コンテも1話分くらいしかない状況で,作曲家の先生に音楽の発注をします」(関氏)
「デジモンアドベンチャー」はテレビアニメ化決定後,集英社のVジャンプで漫画連載が開始されるなどしたが,アニメ制作が決定した当初は,人気タイトルとは言えなかったという。「このテレビ作品を作るための予算は,今だから言えますが,おそらく650万円くらいだったのではないかと記憶しています。この 650万円の予算の中で,テレビシリーズ用の音楽の50数曲と,同時に制作する細田 守監督の『デジモンアドベンチャー』という20分映画のための音楽を,すべて一緒に作らなければなりませんでした」RMT(関氏)